
私が駆け出しの記者だった頃、73歳の男性に出会いました。中学2年生のときに空襲で大やけどを負い、左手の親指しか動かせなくなったという方です。両手すべての指が左右に曲がり、脇腹から皮膚を移植したという右手の甲は、こぶのようになって固まっています。もちろん障害者手帳を持ち、日常生活でも多くの不自由を被っていました。
しかし、男性は、60代前半で一つの趣味に出会います。クラフトです。
唯一動く左手親指を駆使し、1ミリ角や3ミリ角に切ったクラフト用木材を積み上げていきます。作り上げていくのは、京都の仁和寺仁王門、光明寺山門、宇治平等院鳳凰堂、和歌山の那智山青岸渡寺……等々。作品によっては高さ1メートルを超える大作もあり、そのいずれもが、いわゆる玄人はだしの出来映えです。事実、作品の一つは、地元の地区会館で常設展示されていました。
どうして手指に障害を負った方が、よりによってクラフトを選んだのか。男性の答えは「公民館で講座があるのを地域紙で見たから」というものでした。冷やかしのつもりで行ってみて、しかし、自分にも作れる、もっとできるかもしれない、という喜びを得たというのです。
地域の中には、多くの資源があります。催しがあり、営みがあり、人々の暮らしがあります。しかし、多くの人はそれを知らず、身近なところにある素晴らしいものに出会えずにいます。そうしたものを伝える、きちんとしたメディアが少ないから。
男性が見たのは、ほんの数行のPR記事でした。でも、それが人生を変えることもあるのです。「クラフトは生きがい」とおっしゃっていた男性。半世紀も嘆きの対象だった動かない指で、いま“生きがい”を楽しんでいます。
人生を豊かにしていくものは、そんな、ちょっとした、小さな出会いなのかもしれません。
当社は、地域情報を通して、そうした出会いを生み出していく会社です。一人ひとりの人生が豊かなものになり、それによって地域社会に厚みが生まれ、自分たちが自分たちの地域に責任を持つ機運が生まれれば、きっと今の日本の閉塞感やある種の病理も打破できるはずと信じています。少しでもよりよい社会、よりよい未来を築くために、価値ある情報を誠実にお届けしていきます。
(株式会社タウン通信 代表取締役 谷 隆一)