W杯、「老い」のバーベル、押し上げろ

(本紙7/7号掲載予定)

 ベンチに仰向けになった状態で、重りのついたバーベルを胸の上へと押し上げるベンチプレスの魅力にとりつかれて、23年。さる4月には、同競技の世界マスターズシングルリフト選手権に出場した。50代以上が参加するマスターズ2部門の100kg級で、227.5kgを持ち挙げて初優勝。50歳にして、念願の世界制覇を果たした。

 現在は、同部門の世界記録を上回る重量を持ち上げることを目標に、パワーリフティング部の顧問を務める国士舘高等学校で、生徒とともに練習に励んでいる。

中谷さん写真

 もともとは、大学時代に熱中していた空手のトレーニングとして行っていたベンチプレス。卒業後は現在の職場に就職し、23歳で結婚。25歳の時には長女が誕生した。嬉しさの半面、空手をする時間がつくれず、何か体を動かせるものを、と考えていた時にベンチプレスを勧められた。

 最初は70kgを持ち上げるのがやっとだったが、地道にトレーニングを重ねていき、一年後には100kg以上を持ち上げられるほどになった。

 「ベンチプレスの魅力は、こつこつトレーニングを積み重ねれば、記録が伸びること。努力は必ず報われます。あとは、数ヶ月前までびくともしなかった重量を持ち上げられた瞬間が気持ちいいんですよね。一度それを味わったら、もうヤミツキです」

 以降、順調に記録を伸ばし、30代の時には東京都新記録を樹立。さらに、90kg級の230kg、110kg級の230.5kgは現時点での日本記録で、前者の記録は8年近く破られていない。

 4月には、50代以上が参加するマスターズ2部門で優勝したが、年齢のしばりがない一般部門での優勝も、依然視野に入れている。

 「以前は『まだマスターズに出るわけには』と変なプライドがありましたが、加齢という自然現象をしっかり見つめなければ、という意識も芽生えてきて。でも、どうせなら、やはり『最強』を決定する一般部門で優勝したいですね。口のヒゲは、その願掛けで生やしているんです」

 練習は、筋肉に負担を掛け過ぎないよう、週に3回。職場でパワーリフティング部の生徒とともに、汗を流している。

 「50歳の私が記録を伸ばしている姿を見たら、生徒たちも頑張らないわけにはいかないみたいで(笑)でも、それは私も同じこと。まだまだ若い者には負けられない、という思いで、お互いに刺激し合っています。70代や80代のベンチプレス仲間も、その年代での新記録を樹立しようと貪欲にトレーニングを積んでいたり、心も身体もパワーがすごい」

 当面の目標は、マスターズ2部門の100kg級で241.5キロを持ち上げ、世界新記録を樹立することだ。

 「高い山の頂上から見る景色は、とにかく気持ちがいいん。でも、隣にはいつも、もう一回り大きい山があるので、留まるわけにはいかないんです。それと、『老い』に対しては徹底的に対抗したい。自分との闘いになりますが、次の世代にまで元気を与えられるように、気持ちも肉体も元気で若々しくいたいですね」

 ◆なかたに・こういち 1960年生まれ。大阪府出身。国士舘高等学校では数学教諭を務める。


【トップページに戻る】