
野鳥を撮ることで、東久留米の「今」を残したい。
こんな鳥がいたんだよって、次の世代に伝えていきたいんです。
写真家 高橋喜代治さん
2010年4月取材
プロフィール
高橋喜代治(たかはし・きよじ)さん
1942年生まれ、東久留米市在住。ファッション、舞台写真などの現場を経て、現在は野鳥を中心に撮影活動を行っている。主な写真集に「東京の祭りと市」、「落合川の魚たち」、「ラブリーバード」など。
高橋喜代治HP
「まるで恋のよう」と話す野鳥の撮影。日本全国だけではなく、海外にもそのフィールドを広げている。7年前からは在住する東久留米市の野鳥を撮影し、さる3月にはその集大成となる写真集「東久留米で見られた野鳥」を発行した。撮影の他に、落合川の保全活動なども行っている高橋さんは、「自分が見てきた東久留米を写真に残していきたいんです」と活動についての思いを話す。
外泊記録は年間40泊。
――もともとはファッションや舞台などの写真を撮っていたそうですが、野鳥を撮り始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
多摩川でモデル撮影をしていたんですけど、バードウォッチャーの人たちが30人くらい来て望遠鏡を覗いてるんですよ。何を見てるんだろうと思って話しかけたら、カワセミの観察をしていたんです。それで、お願いして見せてもらったら、手を伸ばしたら触れそうなくらいのところにカワセミがいて。
僕が子どものころは、黒目川にいないこともなかったんですけどね、改めて間近で見たら、なんてきれいなんだろうって感動しちゃったんです。で、舞台の撮影に使ってる600mmのレンズを持ってカワセミを撮りに行ったら、もう病みつき。日本全国、世界を飛び、あっちこっち行きましたよ。いやあ、ずいぶん撮りましたね。日本にはだいたい550種くらいの鳥がいるんですけど、これまでに約430種は撮ったと思います。その代わり、家にいたことがあまりないんですよ。車が我が家で・・・(笑)。
――多い時ではどれくらい外泊していたんでしょうか? 車で寝泊まりとなると、何かと物騒なこともあるかと思いますが。
最長記録はね、年間で40泊。いやね、遠くまで行くと、なんとしてでも撮ってやろうと思うわけですよ。1日とか2日で帰ったら、もったいなくて。でも、「おーい」なんて言って出てきてくれるわけじゃないですからね。探しまわって日が暮れるなんて、しょっちゅうです。で、「明日こそ」って車で寝ちゃう(笑)。
今でこそ、道の駅がどこにでもあるから安心ですけど、昔はよく神社に車を停めて寝てたんですよね。すると、夏なんかは若者が酒飲んで暴れてる。まあ、大事に至ったことはないけど、ヒヤヒヤしちゃいますよね。それ以外にも、冬なんかはドアが凍って開かなくなったり、最悪の場合は凍死という可能性もあるので、そこら辺は気を付けています。
野鳥に恋してます(笑)。
――そういったリスクを負ってまで活動を続けている。野鳥の撮影のどういった部分に、そこまでする魅力を感じてらっしゃるんでしょうか。
そうですね、恋みたいなものですかね(笑)。
いやね、当時はカメラマンなんて言ったら結構モテたんですよ。自分は知らん顔してても女の子のほうから寄ってくる。でもね、鳥は違う。なかなか近づけない。むしろ逃げちゃいますから。「どうすれば近づけるんだろう」って必死に考えて勉強して、少しずつお近づきになるわけですけれど、なんだか片思いの恋が実っていくみたいで楽しいでしょう(笑)。
――そんな鳥たちとの甘酸っぱい恋のエピソードを教えていただければ(笑)。
初めてフクロウを撮りに行った時のことなんですが、「なんか変なのが来たぞ」といった感じで僕のほうを見ているんですよ。で、僕は写真を撮りたいから近づくんですけど、あちらは当然逃げるわけです。もう、そこからは試行錯誤の連続。フクロウが好んで食べる肉を持って近づいたり、カメラを持たずに近寄ってみたりといろいろ試したけど、全部ダメ。だから、もっとフクロウのことを勉強しようと思って、2日間ずーっと観察していたんですよ。
それで、こっちが動かない分には意外と平気だということに気がついたんです。だから、1メートルくらいずつ、だんだん近づいていって。最終的に5mくらいのところまで近づいたんですけど、じーっとして逃げなかったんですよね。それ以上近づいてはダメだったんです。
で、初めてそんなに近くでフクロウを見たんですが、とにかくカワイイ。よし、と思ってカメラを持ってこようと動いたら逃げちゃったりね(笑)。でも、その距離さえ分かれば、あとはそこから撮影できるレンズを持ってくればいいだけですから。無理に追いかける必要はないんだとわかりました。
――まさに恋の駆け引きのようですね。
それと驚くことに、僕が帰ろうとすると、鳥のほうから近づいてくるんですよ。ピーピー鳴いてね。そうなると、もうダメですね。後ろ髪ひかれちゃって。そのまま帰れなくて、車で寝ちゃったこともありますよ(笑)。それくらい、鳥への愛情みたいなものが沸いてくると、楽しくてしょうがないですね。
近づいていくこと自体に魅力があるというかね。会話がなくても、理解し合える。
都市化していく東久留米。
今ある自然を写真に残したいと思った。
――3月には、東久留米市内に生息する野鳥を撮影した「東久留米で見られた野鳥」を発行されました。今までは、日本全国や海外をフィールドにしていたわけですが、どうして地元の鳥を撮ろうと思ったのでしょうか。
遠くの鳥を撮るよりも市内の鳥を撮っておかないとな、と思って始めたんですよ。というのも、7年前にちょっと体調を崩して、海外に行くのをやめたんですね。で、その時に市内を散策していたら、自分の記憶とは随分違う東久留米があって。
――東久留米にはいつ頃から住んでいたのでしょうか?
1942年からです。僕が子供の頃は、本当に林ばっかりでね。農村でしたから。でも、今は都市化が進んで住宅ばかりでしょう。鳥もね、もっとたくさんいたと思ったんですけどね。そんなイメージのまま市内を回ったら、あまりにも鳥がいなかったものだから。
これからの子どもたちに、東久留米市にはこんな鳥がいたんだよってことを伝えていきたいな、と思ったんです。記録として残しておきたいな、と。結局、それから7年掛かりで撮影をしました。
――ツミが餌になる鳥を仕留めた瞬間の写真がとても印象的ですが、ああいったシーンを撮るには技術はもちろん、タイミングに恵まれるなど運も必要ですよね。大分苦労されたのではと思いますが。
まあ、そうですね。でも、今回良かったのは地元だったということ。近いですからね、とにかく。根気よく観察して撮りました。ただ、渡り鳥が大変でしたね。1年に1回しか来ないもんですから。翌年に持ち越し、なんてこともありました。
今回68種の鳥を掲載していますが、僕のイメージでは、昔は90種を越えていたと思うんですけどね。でも、いくら一生懸命探しまわってもこの数しか撮れない。いなくなっちゃったんでしょうね。
――一番印象に残っている写真はどれでしょう?
一番はやっぱりヒクイナですね。もともとは湿地帯に住む鳥なんですが、なぜか12月の黒目川にいたんです。ちょうど越冬の時期だったから、途中、疲労かなんかで黒目川に降りちゃったんじゃないでしょうかね。
本来、暗い所を好む習性があって、夜行性だからなかなか昼間はお目にかかれない鳥なんです。確認できても鳴き声だけとか。だから、見たいなら生息数の多い沖縄に行かないと、と言われるくらいで、肉眼で見ることができるのは、とても珍しいことです。
それが東久留米で見られるということで、約半年のうちに全国から3000人弱が集まったんですよ。「ヒクイナがいたなんて冗談でしょ」って言う人もいるくらい。貴重さがわかるでしょ。僕もまさか東久留米で撮影できるとは思わなかったので、この鳥のことはよく覚えていますね。
同じ写真を撮るなら、きれいなほうがいいなと思って。
そうしたら、ゴミを拾う仲間が自然と増えていました。
――川といえば、同じく7年前から「落合川清掃ボランティアグループ」として、川の保全活動をしていますよね。野鳥の撮影とは何か関係があるのですか?
そうですね。鳥は私にとって大事な被写体ですから、いい環境を整えたいというのが単純な動機です。カワセミを撮ろうと思って川に行ったんですけど、ゴミが捨てられていて汚かったんですよ。これは写真を“撮る”より、ゴミを“取る”のが先だと思って。
最初は一人でやっていたんですけど、意外とカワセミを撮っている人が他にもいたんですよね。で、僕もやるよ、なんて話かけてもらって。そこから10人、15人ってどんどん広がっていったんです。今も毎月第3日曜日にやっていて、毎回45リットルの袋で2、3袋は集まります。いつも同じ場所に同じ物が捨てられているようなケースや、散歩中の犬のフンを川に捨ててる人がいるんですよ。本当に一部の人だと思うんですけどね。
消えゆく武蔵野の風景。
写真集を見ることで、自然の大事さを再確認してほしい。
――そうした保全活動や撮影を続けていると、同市について感じることや気づくことも多いかと思います。生まれてからずっと東久留米を見てきた一人として、いま何を感じてらっしゃいますか。
やっぱり、住宅が増えて緑がなくなっちゃいましたよね。それがいちばん。昔は農家ばかりで、広い屋敷の周りに畑や田んぼがあったんですけど……。昔の面影なんていうのが、全くないんですよ。自分の住んでいた東久留米が無くなったみたいで、寂しかったですね。おれの故郷はどこなんだろうって。
時代や生活環境は変わっていくものだと思うけど、武蔵野の面影を残さないといけないんじゃないかと思うんです。東久留米は川が2つもあったり、盆地があったり、本来武蔵野のイメージは強いはずなんですけどね。
このままだと、鳥もどんどんいなくなっていくでしょう。だから、今回写真集を出したというのもあるんですけど。これから先、この写真集を見ることで一人でも多くの人が「自然を残しておかないと」という気持ちになってくれればいいな、と思います。
――まずは写真として残すことに意味があるわけですね。
そうですね。残していきたい、伝えていきたいという思いがすごい強いです。だから、自分がわかる範囲だけでも写真を撮って、残していきたいなって。
あとは、何かのきっかけをつくりたい。今回の写真集を偶然見ることで、鳥の名前を知らない人とかが「お、この鳥きれいだな」なんて、鳥に興味を持ってくれたら嬉しいですね。
――写真の魅力とは、ずばり何でしょうか。
自分の思いや感動を表現できることですね。感動するから、残したいから、シャッターを押す。感動しないと、写真は撮れないですよ。
――最後に、今後の展望を教えてください。
東久留米の鳥を撮ったでしょ。でも、まだまだこの地で撮らないといけないものがあるんじゃないかな、と思っているんですよね。先代の時からこの町で受け継がれてきたもの、残してきたもの……、それを次の世代に伝えていきたい。そして、私たちが見てきた東久留米を残していきたいですね。
