2017.11.21 寄稿

【読者から】あしたが最高の「創〈はじ〉まり」でありますように

cap 店内に飾られた、奥岡幸次チーフ(享年63)を偲ぶ《モニュメント》

 

                          西東京市 会社員 山本善宣(52)

 

「年老いているということは、もし人が創〈はじ〉めるということの真の意義を忘れていなければ素晴らしいことである」(マルティン・ブーバー)

 

私の暮らすまちに、「幸 -kou-」という名前の焼肉店がある。こだわりの絶品炭火焼肉が存分に堪能できる人気店だ。同店ではA5ランクの和牛 [米沢牛] を取り扱っており、上質なお肉をリーズナブルな価格で提供してくれる、懐にやさしい繁盛店でもある。

 

2013年10月にオープンした幸は、初代店主である父・奥岡幸次さんと娘のしいなさんが始めたアットホームな店だ。「最高の接客、最高の焼肉」でもてなすことをモットーに日々の営業に心血を注ぎ、開店からおよそ一年後には“予約をしないと入れない店”として周知されるほどに。しかし、16年6月のある日、料理長でもあった幸次さんが突然病に倒れ、闘病の末、死去。休業を余儀なくされる。

 

父と娘の強い絆————。先代の遺志を受け継ぎ、脱サラして厨房を仕切ることを決意した勇敢な二代目チーフの兄。そして、いまどき珍しいくらいまっすぐで心あるスタッフたち。再開を待ち望んでいた常連客……。さまざまな人びとの想いに支えられ、17年4月、営業再開にこぎつけた。

 

店長を務める柴しいなさん(32)とは、本稿の執筆が縁で初めてお会いしたのだが、なんだか初めて会う人のような気がしなかった。とてもじっくりと深くものを考え、それをチャーミングな言い回しで、正確に表現できる人である。柴さんにお会いして、つくづく「料理は人柄だなあ」と思ったことである。大げさな話ではなく、彼女と彼女の仲間たちがやりとげた仕事は(今も続行中だが)、現在の日本の食文化の中でもきわめて創造的で、しかも心のある仕事だ、と私はほとほと感心する。

 

触れて、感じて、ほっとする。リラックスするための美容と健康にいい癒しのデトックスメニュー。この機会に、最高に美味しい焼肉を、五感を働かせながら、ぜひ味わってみてほしい。きっと元気と勇気をくれる、最高のあしたを創めるためのきっかけとなるはずだから。

 

忖度、空気読み、炎上、村八分、バッシング————。なぜこんなに気疲れするのか。この国の息苦しさの正体は一体何なのか。いつも誰かの顔色をうかがう感情の奴隷にならないためにも、「今だけ、カネだけ、自分だけ」の世の中で、彼女と彼女の仲間たちが21世紀の〈感情支配社会〉をどう生き抜いていくのか、これからも楽しみに見守りたいと思う。

 

店内には、今は亡き初代チーフ・幸次さんへ贈る《モニュメント》が飾られている。集められた寄せ書きと数点の写真には、他者のために命を削り、最期に輝く「生」を分け与え、惜しまれつつも逝ってしまった先代への感謝の気持ちと、故人と若きスタッフたちとの“愛と笑いの夜”の記憶が刻まれている。

 

「おかげさまで、業績はピーク時と同レベルといえるほどに回復。今後とも慢心することなく精進していきます」と話す柴店長。これからも、彼女と彼女の仲間たちの青春と成長物語は淡々と続いていくに違いない。

 

最初から最後まで、最高のあしたを創めるためのポジティブなストーリー。私にとって、彼らと過ごした短くも濃密な時間は、とても素敵な夢のような瞬間だった。

 

「もう歳だから新しいことにチャレンジできないと思ったら、そこから人は老いていくのだ。人間は、幾つになっても何かを創められる自由を持っている」、そう彼女たちが教えてくれているように感じたのである。

 

このたびの原稿執筆にあたっては、店長の柴さんと店主の奥岡氏(36)のご尽力を得た。また栞さん(20)&ほのかちゃん(20)をはじめとするスタッフの方々にもお世話になった。最後にそのことを感謝とともに記しておきたい。おそらくこの先、こんなにかわいらしいテキストを書くことはないだろう。そう考えると、いとおしさがこみあげてくる。みなさん、ほんとうにありがとうございました。

 

「幸 -kou-」東京都西東京市田無町3丁目11-12(042-469-0069)