2018.04.04 コラム

平櫛田中彫刻美術館学芸員・藤井さんインタビュー後編

<平櫛田中彫刻美術館学芸員・藤井さんインタビュー後編>

タウン通信Webで4月5日から月刊連載を開始するコラム「デンチュウに学べ」。同コラムの著者であり、小平市平櫛田中彫刻美術館の学芸員でもある藤井明さんのインタビューを掲載します。

 

※インタビュー前編はこちら

 

<プロフィール>

藤井 明(ふじい・あきら)

小平市平櫛田中彫刻美術館/学芸員

1968年石川県生まれ。青山学院大学大学院文学研究科史学専攻修了。1993年から現職。武蔵野美術大学非常勤講師(2014~)、放送大学非常勤講師(2016~)。著書に『近代日本彫刻集成(全三巻)』(共著、国書刊行会、2010~2013年)、『橋本堅太郎作品集』(共著、講談社、2011年)、『日本藝術の創跡22』(共著、クオリアート、2017年)等がある。

 

小平市立平櫛田中彫刻美術館

denchu-museum.jp

 

<インタビュー後編>

——生き方が作品の内容に密接しているというのは、どういうことでしょうか。

 

田中さんもそうですし、田中さんと同時代を生きた作家さんの多くは、“生きること”と“つくること”が一体となっています。田中さんの場合は、自身の中にある「こうありたい」と願う思いや苦悩を作品に重ねるようにして、人間の内面を表現しようという思いがとても強い人でした。

 

——例えば、どのような作品がありますか?

「尋牛」という、仏教の説話をテーマにした作品があります。これは、岡倉天心から推奨を受けた、田中さんの出世作です。

 

同作のテーマになっている説話は、自分の飼っていた牛がいなくなってしまい、山の中へと探しに行く男性のお話です。牛はなかなか見つかりませんが、辛抱強く歩いていくと、牛の足跡を発見。無事に牛を見つけ、その背中に乗って帰ってくるーーというもの。

 

「尋牛」は、牛を探すために、まっすぐ、しっかりとした足取りで歩いていく男性の姿を、自分が彫刻に取り組む姿と重ね合わせてつくったものです。造形的におもしろいという理由だけでつくったわけではなくて、ある種の理想の世界を表現していた。そこが、近代彫刻の特徴かなと思います。

 

現代アートの場合は、もっと少し哲学的な考え方に寄っています。物がそこに存在する意味を見る人に考えさせたり、当たり前と思われていた世界に揺さぶりをかけたりと。

 

 

——そういう背景がわかると、より作品を楽しむことができますね。造形だけではなく、違う角度から作品を見つめられるというか。藤井さんが、田中さんの作品の中で好きなものを挙げるとしたら、どの作品になりますか?

いろいろありますが、当館で収蔵しているものですと、一つは「かがみ」ですね。箱に「見悪しさに鬼も角を折る」と墨書のある作品です。片方の角を失ってしまったのか、鬼の頭には、アンバランスに右側だけ角が生えています。鬼は、その見苦しさに耐えかねて、鏡を見ながら角を折ろうと必死になっているのですが、角といったら鬼のシンボルですよね。角を抜いたら、鬼ではなくなってしまうのに、本人は格好の悪さにばかり意識が向いていて、その大事なことに気がついていない、という。

 

鬼というと怖いイメージがありますが、田中さんの鬼はユーモラスでどこか可愛らしさもある。それでいて、鬼を“人間の醜さを映し出す鏡のような存在”として田中さんが考えていたように感じられ、見ていて非常におもしろい作品ですね。

 

——へぇ〜! 作品を見ると、どれも表情や姿勢などから物語を読み取ることができそうですね。ちなみに、先ほど、入り口で「気楽坊」の蒔絵シールを買ったのですが、気楽坊はどのような作品なんでしょうか。

 

「気楽坊」は江戸時代の指人形をヒントにつくったものです。実は、顔については、内閣総理大臣を務めた吉田茂をモデルにしています。というのも、田中さんの代表作の一つである「鏡獅子」をつくってほしいと吉田さんから頼まれたことがあって、田中さんは彼と何度かお会いしているんですね。その時の、吉田さんのニコッとした笑顔が印象に残り、「気楽坊」をつくる時に、吉田さんの顔が取り込まれたのです。

 

——そのエピソードは知りませんでした! 私の知人が、平櫛田中彫刻美術館の親子ワークショップで粘土を使って「気楽坊」をつくっていたのですが、多くの人に愛されている作品でもありますよね。

 

「鏡獅子」などは展覧会に出品する目的でつくったものが多いのですが、「気楽坊」は田中自身が楽しみながらつくった作品なんです。形も3パターンありますし、服の色や模様も変えている。そういう楽しさが、見る人にも伝わっているのかもしれませんね。

 

ところで、「気楽坊」をつくるのって、簡単そうに見えて難しいんですよ。ワークショップでこれをつくろうとして、失敗する人が結構います(笑)。「気楽坊」のようにシンプルな形のものでも、実は緻密なバランスでつくられているんですね。そういった田中さんのすごさに改めて気付かせてくれる作品でもあります。

 

 

——こうして楽しそうにお話してくださる藤井さんを見ていると、当初、この美術館で働くのに前向きではなかったというのが嘘のように思えますね(笑)。

 

だからこそ話せるというのはあります(笑)。

 

私は父がデザイン関係、母が書道家で、小さい頃から、美術館やギャラリーに絵を観に連れて行かれていました。でも、静かにしていないといけないし、あまり楽しい場所というイメージではありませんでした。なので、子どもの頃の自分に今の姿を見せたらびっくりするだろうな、と思います。

 

でも、振り返ると、小さい頃から美術館に足を運んでいたというのは、非常にいい経験だったと思います。「子どもにはまだわからないよね」と決めつけてしまうのではなくて、「今はまだわからないかもしれないけれど、いずれわかる時が来るだろう」という考えで、美術館に連れていってもらっていた。その体験がなければ、今の自分はいませんから。

 

——親子ワークショップや、子どもでも気軽に読める漫画化などの企画に合点がいきました。読者のみなさんには、コラムの連載はもちろん、美術館にも足を運んでいただき、小平市が誇る彫刻家・平櫛田中さんの思想や作品に触れてもらえればと思います。本日はありがとうございました!

 

 

 

<リンク>

小平市立平櫛田中彫刻美術館

denchu-museum.jp

 

<目次>

第0回

平櫛田中彫刻美術館学芸員・藤井さんインタビュー

第1回

「六十七十ははなたれこぞう 男ざかりは百から百から」

第2回

「けふもおしごとおまんまうまいよ びんぼ(う)ごくらくながいきするよ」

第3回

「このつちはたからうちだすつちならで のらくらもののあたまうつつち」

第4回

「売れないものを作りなさい」