2018.06.07 注目

デンチュウに学べ!③「このつちはたからうちだすつちならで のらくらもののあたまうつつち」

<【コラム】デンチュウに学べ!③「このつちはたからうちだすつちならで のらくらもののあたまうつつち」>

国立劇場のロビーを飾る彫刻「鏡獅子(かがみじし)」の作者として知られる彫刻家・平櫛田中(ひらくし・でんちゅう)。100歳を過ぎても衰えることのなかった創作への意欲は、「六十七十ははなたれこぞう 男ざかりは百から百から」という名言に表れています。本コラムでは、小平市平櫛田中彫刻美術館の学芸員を務める藤井明氏が、平櫛田中の遺した言葉の数々を紹介。107年の充実した人生を全うしたデンチュウの言葉から、人生を豊かにするヒントをひもときます。

 

 

平櫛田中作「福聚(ふくじゅ)大黒天尊像」

 

七福神の中でもっとも親しまれているのは、おそらく大黒だろう。その大黒が手にしているのが打出の小槌で、ひと振りすれば財宝がザクザク出てくると信じられている。

 

デンチュウもたくさんの大黒を彫ってきた。でもデンチュウの大黒は小槌が普通と違い、富(財宝)をもたらしてくれるものではない。「のらくらもの」、つまり怠け者の頭を「しっかりせい!」とポカンと叩くための小槌なのである。上の文章を現代風に直すと次のようになる。

 

この槌は宝を打ちだす槌ではなくて、怠け者の頭を打つ槌である

 

なるほど、苦労なく手に入れたお金はあっという間に無くなってしまうが、苦労して身に付けた技能や知識は一生もの。金持ちになれる保証はないが、喰い扶持に困ることもなさそうだ。この大黒は私たちが「のらくらもの」にならないように見守ってくれているのである。なんとも有難い話ではないか。

 

作品の箱蓋に書かれた句

 

ところで、皮肉なことにデンチュウの作品で最も贋作が多いのが、今回紹介した句が書き込まれた大黒なのである。御利益を期待して大枚を叩いて手に入れた大黒が、偽物と分かった途端に二束三文になってしまうわけだから、頭を叩かれるより痛そうだ。

 

この文章を書いていて気づいたのだが、デンチュウは他にも怠け者をテーマにした《転生》という作品を作っている。生ぬるい人間を食べた鬼があまりのまずさに思わず吐き出してしまうという、故郷の山陽地方に伝わる話に基づいて作られた。生ぬるい人間、つまりいい加減な人間にならないように、自戒の気持ちを込めているのだという。

 

平櫛田中作「転生」

 

鬼の口から吐き出された人間はどんな気持ちであろうかと近づいて見ると、恐怖を感じている様子もなく、かといって喜んでいるようにも見えない。その時々の状況に身を委ねて生きているようにも感じられ、どこかのんきでさえある。

 

大黒に頭を叩かれる「のらくらもの」。鬼の口から吐き出された「生ぬるい人間」。「しょうもないやつだ」とぼやきながら、彼らを憎めないでいるデンチュウの気持ちがにじんで見えてくるようだ。

 

<作家プロフィール>

藤井 明(ふじい・あきら)

小平市平櫛田中彫刻美術館/学芸員

1968年石川県生まれ。青山学院大学大学院文学研究科史学専攻修了。1993年から現職。武蔵野美術大学非常勤講師(2014~)、放送大学非常勤講師(2016~)。著書に『近代日本彫刻集成(全三巻)』(共著、国書刊行会、2010~2013年)、『橋本堅太郎作品集』(共著、講談社、2011年)、『日本藝術の創跡22』(共著、クオリアート、2017年)等がある。

 

<リンク>

小平市立平櫛田中彫刻美術館

denchu-museum.jp

 

<目次>

第0回

平櫛田中彫刻美術館学芸員・藤井さんインタビュー

第1回

「六十七十ははなたれこぞう 男ざかりは百から百から」

第2回

「けふもおしごとおまんまうまいよ びんぼ(う)ごくらくながいきするよ」

第3回

「このつちはたからうちだすつちならで のらくらもののあたまうつつち」

第4回

「売れないものを作りなさい」