2018.08.02 イベント

オペラで発見“バリアフリーの本質”  世界的プリマ・シニア・児童合唱団が同じ舞台に



 17日、渋谷で上演 難病患うソプラノ歌手が企画

 

西東京市在住のソプラノ歌手で2年前から国指定の難病を患っている坂井田真実子さんが、後遺症を抱えながらも全国の舞台の企画・出演や地域の児童合唱団との稽古に打ち込んでいる。17日(金)には、ウィーンの有名オペラ歌手を招いた公演を実施。「一つの舞台をつくるよろこびが、さまざまな壁を越える」と話す。

 

先月22日(水)、練習会場の成美教育文化会館を訪ねたときのこと。少女たちの歌声に誘われて扉を開けた瞬間、子どもたちの前に立つ女性に目を奪われた。

 

身振り手振りを交えて歌う姿。彼女がハーモーニーの中に加わると、空気が震えるのを肌で感じた。その女性こそが、闘病中と聞いていた坂井田さんだった。

 


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坂井田さんと稽古していたのは、西東京市を中心に活動する児童合唱団ムーサ(4~18歳)の子どもたち。17日の公演「チルコロ マミコ版 オペレッタ“こうもり”~ウィーン フォルクスオーパーのプリマを迎えて」で、国内外を代表するプロ歌手らと共演する。その一人は、坂井田さんが文化庁新進芸術家在外派遣員としてウィーン留学中に師事し、その歌声を「天から舞い降りてきたよう」と表するウィーン・フォルクス歌劇場専属のソプラノ歌手・クリスティアーネ・カイザーさん。国際的なプリマと地域の児童合唱団が共演するという異例の舞台となる。

 


 

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 カイザーさんの来日公演は今回が2年ぶりの2回目。実はその初来日のときに、企画者の坂井田さんを病魔が襲った。病名は、視神経脊髄炎(NMOSD)。国指定の難病で病因は解明されておらず、突然の発症だった。
 当時は下半身不随になり、医師に「一生、車いすで過ごすことになる」と宣告された。それでも、5カ月間のリハビリによって、自力で歩けるほどに。驚異的な回復の原動力となったのは、病室に運び込んでもらったピアノ。歌を歌い、音楽のことを考えると元気が湧いてきた。

 


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稽古の取材中、ハツラツとした様子で子どもたちと接する彼女の姿には「完治」という2文字が浮かんだほど。しかし、実際には神経疼痛(とうつう)や疲労感などの後遺症に苦しんでいる。病気になる前の3分の1程度しか体力がなく、外出時には杖を片手に歩くことも。それでも、「稽古や舞台の場では、仲間がいるから力がみなぎる」と坂井田さん。

 

本公演には、同じく障がいを抱えながら暮らす小平市在住の藤原千鶴さんが、ムーサの一員として出演する。きっかけは、坂井田さんが指導する市民合唱団に、千鶴さんの祖母・博子さんが所属していること。祖母が出演する公演を観に行った千鶴さんは、ムーサの子どもたちが大人に交じって歌うのを目にして、「私も歌いたい」と入団。このたび、孫娘と初共演する博子さんは「まさか同じステージに立てるとは思いもしなかった」と言葉を詰まらせる。

 

「稽古でつまずく場所は人それぞれでも、共に舞台をつくる共同体となることで他人の痛みを理解し、相手に優しくなれる。年齢も、肩書きも、障がいの有無も関係ありません。舞台のような経験こそが相手を思いやるバリアフリーの精神につながると感じています」


 と坂井田さんは話す。

 


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公演は17日(金)午後6時30分から、Hakuju Hall(渋谷区富ヶ谷1の37の5の7F)で。入場料は4500円。問い合わせは主催のチルコロマミコ企画(070・6475・3013)へ。
 (取材記者・石川裕二)