高齢化とともに年々増加し、今や500万人が発症しているとも言われる認知症。その原因としてよく知られるアルツハイマー型と並び、ここ最近、レビー小体型認知症(DLB)が関心を集めています。
パーキンソン病との関連も指摘されるレビー小体型認知症について、複十字病院(清瀬市)認知症診療支援センター長の飯塚友道先生に解説していただきました。
初期には「もの忘れ」は目立たず、はっきりとした「幻視」が特徴
――まず認知症について教えてください。
「認知症は、新しいことを覚えられなかったり、今いる場所や相手が分からないなど、認知機能の低下によって生活に支障が出ている状態を言います。
中核症状として記憶障害・判断力低下・見当識障害があり、周辺症状として、BPSD(行動・心理症状)と呼ばれる、徘徊、暴言・暴力、異食、妄想、拒絶などが現れることがあります。
ご承知の通り、主に高齢者に起こるもので、現在では全国で約500万人、その前段階の状態である軽度認知障害(MCI)は約400万人いるとも言われています。
その原因は、細かく分けると70種類くらいありますが、多い順にアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性の3つがあり、三大認知症と呼ばれます」
――近頃よく聞く「レビー小体型認知症」ですが、どんな病気なのでしょう。
「『レビー小体』という、異常なたんぱく質による構造物が大脳皮質に広く現れ、神経細胞が減少することで認知症を発症するという病気です。
特徴的な症状として、初期にはいわゆる『もの忘れ=記憶障害』は目立たないことが多く、幻覚、特に存在しないものがはっきり見える『幻視』が出現しやすいこと。非常に鮮明な幻視で『花柄の服装の若い女性がいる』など、具体的でしっかり記憶されていることが多く、そのため認知症とは気づかず、一種の精神疾患と間違われるケースもあるようです。
1980年代までは比較的まれな病気とされていましたが、現在では上図のように認知症の約20%と推定、患者数では約75万人と考えられ、この数からも珍しい病気ではないことがお分かりいただけると思います」
――よく知られるアルツハイマー型とはどう違いますか。
「アルツハイマー型認知症との違いをまとめた表(下)をご覧ください。
アルツハイマー型は脳の中の『海馬』が萎縮することで主に記憶障害が現れるのに対し、レビー小体型は『後頭葉』の血流減少と関連した視覚認知障害(幻視など)が現れやすい、という違いがあります。
また、アルツハイマー型は病気に対する自覚(病識)に乏しいことがほとんどですが、レビー小体型の場合、初期には本人が自覚していることが多いことも挙げられます。
ただし、レビー小体型認知症も進行すると記憶障害も出てきますので、最終的にはどちらも同様の状態になっていきます」
初期での投薬治療の効果は比較的大きい
――レビー小体型認知症の検査は、どのように行うのですか。
「問診や幻視の有無を確認する簡単なテストのほか、脳内や心臓の画像診断を行います。
特に他の疾患と鑑別するために『脳血流SPECT』『ドーパミン・トランスポーター・シンチグラフィ(DaT―Scan)』『MIBG心筋シンチグラフィ』は精度の高い鑑別と投薬治療の判断材料として有用です。
複十字病院ではこれらの画像診断を受けることができます」
――治療はどのように。
「今のところ根本治療はありませんが、薬物療法により幻視などの初期症状の多くは改善が期待できます。ですから、できるだけ早期に発見・鑑別して治療を開始すれば、良い状態を長く続けられる、ということになります。
半面、薬の効果は個人差があり、中には“薬剤過敏症”がでる人もいますので、医師と相談しながら薬の種類と量を調整してもらうことが重要です。
できれば、認知症とパーキンソン病の両方に精通している神経内科専門医に診てもらうことをお勧めします」
――家族は、患者にどう接するべきでしょう。
「まずは本人の言動を否定しないことを心掛けてください。幻視についても『何が見えるの?』と本人の話を聞くこと。そのうえで、それをどう思うのか聞いてください。本人が怖がっていたり、大騒ぎをする事態になったなら、すぐに医師に相談すべきです。
幻視には、そのときの精神状態が表れます。家族や周囲の人が病気を理解し温かく受け入れて、本人が安心できる環境があれば、症状の進行はゆっくりしたものになっていきます。
認知症というと絶望的になる方が多いですが、早期治療で良い時間を長くできますし、何よりも、運動などによる予防効果も期待できます。万一発症しても対策がありますから、希望を持って病気に向き合ことが大切です」