4面で紹介した吹奏楽の取り組みは、時宜を得た素晴らしい企画だと思う。
収録の案内をいただいたときにぱっと思ったのは、「文化の力」だ。以前アルゼンチン人のギタリストを取材したことがあるのだが(2018年1月10日号。レオナルド・ブラーボさん)、同国の通貨危機に直面した際、人々はスーパーの前で食べ物を分け合い、共に歌う姿があったのだという。ギターを習う人も、例年以上に増えたという。
危機や困難に直面したとき、人は本能的に文化を欲するのかもしれない。それは人々とつながる有効なツールでもあるし、独りの心を癒やすものでもある。
こうした話になると触れずにいられないのが、以前にお世話になった故・河野正知さんのことだ。主に西東京市での文化活動に活躍された河野さんは、若い時にビルマ(ミャンマー)を行軍した経験を持つ。食べ物はなく、仲間が倒れ、行き先も定かでないような苦しい行軍のなか、河野さんを支えたのは短歌を詠むことだった。河野さんはトイレ用に配られる厚紙を大事に集め、丁寧な字で短歌を書き綴った。それを紹介する記事では、当時の上司のアドバイスもあり、「戦争に耐える文化の力」とタイトルを付けた。
もう一つ、地域性のある話もしておこう。
苦難と文化というつながりでは、この地域には「国立ハンセン病資料館」という宝庫がある。ハンセン病を患い、人権を無視された人々は、文芸、陶芸、音楽などさまざまな文化活動を通して、自らを主張し、慰め、他者とつながった。
私が個人的に最も感銘を受けるのは、舌で点字を読む人の姿を捉えた写真だ。ハンセン病の後遺症で視力と指先の感覚を失った人が「舌読」をするのだが、これは口を血まみれにして習得するものなのだという。
そうまでしても何かを読みたいというその思いに感動する。
さて、今地域では、人々の集まりそのものがままならなくなっている。そんななかで動画配信が行われたのは、技術的にできるようになったからという単純な話ではなく、「何とかして伝えたい」という活路であったと捉えるべきだろう。
ウイルスとの戦いが長期戦になりそうな今、きっとほかにも、新しい取り組みが始まっているはず。自薦・他薦いずれでも、ぜひ教えてください。
(2020年4月1日号・本紙掲載分から転載)
株式会社タウン通信代表取締役。地域紙「タウン通信」を多摩北部で約10万部発行、ウェブサイトでも地域情報を発信する。著書に
『議会は踊る、されど進む〜民主主義の崩壊と再生』(ころから)、
『中高生からの選挙入門』(ぺりかん社)、
『起業家という生き方』(同、共著)、
『スポーツで働く』(同、共著)、
『市役所で働く人たち』(同)がある。
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谷 隆一