鬼滅の弓矢 〜破魔矢から「正月」を考える〜

取材余話

 

新型コロナウイルスで初詣の「分散参拝」が呼びかけられている2020—2021年。こんなときだからこそ、ちょっと紹介したいトリビアがある。以前、人形店で聞いた「破魔矢」「破魔弓」に関する話だ。

破魔矢というと初詣で神社で買い求める「矢」を思い浮かべる方が多いだろうが、弓(破魔弓)とセットにして自宅に飾る風習もある。
この場合、破魔弓は旧年中に飾り、正月・松の内あたりにしまうことになる。

ところが、これは受けが良くない。登場期間は2週間程度で、出し入れも面倒。ひな人形、五月人形に比べて地味でもある。

というわけで、年末年始に破魔弓を飾る習慣はどんどん廃れていっている。人形店いわく、売り場は年々縮小しているそうだ。

当然、その状況は、人形店には面白くない。
ある地元の人形専門店を訪ねたとき、「伝統がちゃんと伝わっていないからだ」と店主が口火を切った。

「破魔矢・破魔弓は何かというと、要は魔除けなワケ。魔を破るんだからそうだよね? じゃあ、魔とは何か。魔とは何だと思う?」

突然、質問してきた。唐突に聞かれて戸惑っていると、「鬼でしょ」と店主は語る。

「日本で魔といえば鬼だよ、鬼。じゃあ、鬼はどんな格好をしているの?」

と再質問。またまた戸惑っていると「鬼の服装は?」とたたみかけてくる。

「鬼の服……ですか。う〜ん」
としばし黙考した後、「すみません。おにーのパンツはいいパンツ〜♪ しか思いつきません」と恥じ入りつつ答えた。

ところがだ。そこで、にわかに店主の目が光った。
「そうだよ、それだよ!」と食いついてくる。

「で、その続きは?」
「続き? 強いぞ強いぞ〜♪ ですか?」
「そうだ。そして?」
「トラ〜の毛皮でできている〜、強いぞ、強いぞ〜♪」
「そこだ!」

と店主。

ワケが分からず黙っていると、「トラのパンツでしょ。鬼の服装といえば、トラのパンツ」と店主は強調した。

「じゃあもう一つ。鬼の頭に生えているのは?」

頭? 鬼の頭ってどんなだっけ? と記憶をたどりつつも、店主の言った「生えている」に従えば、普通に考えてツノしかない。

「ツノですか?」

恐る恐る言ってみると、「そうだよ、ツノだよ」と店主。大正解。

「じゃあ、頭にツノが生えている動物といえば?」
「……」

最初に鹿が思いついたが、違う予感がする。で、黙っていると、「牛だよ、牛」と店主は言った。

「つまりね、鬼というのは、牛とトラの合いの子なワケ。
で、暦の話になるのだけど、牛(丑)というのは今の月でいうと1月なんだよ。で、2月はトラ(寅)。つまり、1月から2月に移り変わるときに鬼が出る、ということ。

じゃあ、1月から2月に移り変わるときって何?
節分でしょ? 旧暦の大晦日。だからここで、鬼退治の豆まきをするわけだ。

破魔弓を正月に飾るのも同じ理由。なぜ破魔弓を年末に出して松の内中飾るかというと、その時期は、魔が訪れるときだから。本当はそれは旧暦なんだけど、正月が新暦に移ってしまったから、縁起担ぎも移行したというわけだよ。

そういうことがちゃんと伝わっていれば、誰だって破魔弓を家に飾りたくなるはずなんだけどね……」

と、店主の話はこんなふうに終わった。

 

もっとも、Wikipediaなどで見ると、破魔矢・破魔弓の由来はまったく別のものが書かれている。そこは諸説があるのだろう。真偽のほどは定かでないが、ともあれ、店主の話には確かに説得力があった。

何にせよ、こんな説もあることを知れば、分散参拝にも前向きな気持ちになれることだろう。

そもそも、本原稿(「初詣の選び方」)にも書いたが、本来の「迎春」「新春」は立春を迎えてからのはず。
新暦の三が日中の参拝にこだわる理由なんてないのだ、たぶん。

(文・谷隆一/「タウン通信」代表)

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