他者と調和し高め合う  空手の国際大会で優勝 佐野 忠輝さん

佐野忠輝さんは、西東京市コール田無そばの「極真会館 城西世田谷東支部 田無道場」で約120人を指導する空手家です。

先月、各国代表経験者で競う極真空手の国際大会マスターズ35~44歳の部で、国際大会では自身初の優勝を果たしました。

が、そんな快挙にも、「通過点」と気を引き締めています。

慢心を嫌い、己と向き合う姿は、まさに武道家のそれ。「何事もプロセスが大事」と強調します。

 

苦い記憶を胸に

苦い思い出がある……。

1999年、初めて日本代表に選ばれた世界大会でのこと。

メディアで騒がれ、町中ではサインを求められることもあった日々。浮かれていたのか、「負けるはずのない相手」に判定負けをしてしまいました。

相手はバッグ一つで途上国から乗り込んできた身。その必死さを前に、武道家としての自分の未熟さを思い知らされました。

 

試合は教えを請う場

以来、「他人との比較はしない。自分がどうあるべきか」を追求し続けるようになりました。

道場生たちにも、勝敗への評価はせず、その過程でどれだけの努力や準備をしたのかに着目します。「そもそも試合は、相手に勝つことだけが目的ではないんです」とも語ります。

「試合は教えを請う場です。相手と戦うのではなく、自分の足りないものを諭してもらうのです。相手の攻撃でダメージを受ければ、『防御が足りないんだ』と学べます。だからこそ、強い相手と試合をしたいのです」

そうした試合の様相は、「議論に似ている」といいます。

議論は、仲が悪くてするのではなく、お互いに何かを良くしようと思って意見をぶつけ合うもの。結果、自分の知らないことを学んだり、意見を言いながら自分自身の深層も発見していけます。

「良い議論ができる人は、うまく話をまとめることができます。ちょっと譲歩したり、譲れない部分はしっかり盛り込んだり。

空手も同じで、力任せで押し込むだけでは勝てません。大切なのは調和。相手と調和することで、柔軟に逆を取ったり、隙を突いて技を決めたりできるのです。

私たちは空手を通して、社会生活に必要な『調和して互いに高め合う』ことを学んでいるのです」

 

カラダを使うから分かることがある

とはいえ、極真空手は本気で殴り合い、蹴り合うもの。そこまで痛い思いをしなくても、とも思えますが……。

「体をフルに使うからこそ身に付くものがあります。特に、機械化やIT化でどんどん肉体的に楽な世の中になっているからこそ、本来人間が持っている力を思い出していくことが大切でなのです。

例えば、最近は中高生が当たり前のようにメールなどを使いますが、表情や雰囲気で相手の気持ちを察するスキルがないうちに駆使するのは危険です。

相手を観察しながら戦う空手は、他者の反応や様子を感じる力も養ってくれるのです」

 

道場の理想は「寺子屋」

いま、「田無道場」には5歳から55歳まで性別・年齢・職業ともさまざまな人が通っています。

肩書も帯の色も関係なく、みんな同じ立場で汗を流しています。40代の初心者も少なくありません。

その異世代交流は、子どもたちが社会を知る一隅になっています。

「ここの理想は『寺子屋』です。ただ技術を学ぶのではなく、『どう生きるか』を学べる場所。痛そう、つらそう、のイメージにとらわれず、一人でも多くの方に参加してほしいです」

 

さの・ただてる 1971年7月、東京都生まれ。全日本ウェイト制重量級準優勝などの実績あり。「田無道場」責任者を務めつつ、選手としても活動しています。三児の父。

 

入門者募集中

「田無道場」では、入門者募集中。年齢・性別・経験不問。見学歓迎。詳しくは同道場(042・466・6557、西東京市田無町2の14の10、http://tanashi-setahiga.main.jp/)へ。

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