認知症の正しい理解と治療の現状~神経内科医の視点から~

複十字病院 認知症診療支援センター長・飯塚友道先生に聞く

認知症高齢者は全国で約462万人、65歳以上の10人に1人が発症しているとも言われるなか、3月21日(土)、小平市・花小金井で認知症をテーマに「地域医療セミナー」が開かれます(主催/ベネッセスタイルケア 協力/複十字病院 認知症診療支援センター)。

講師は、複十字病院(清瀬市)認知症診療支援センター長の飯塚友道先生です。

セミナーに先駆け、認知症についてお話を聞いてきました。

(※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)

飯塚 友道先生/複十字病院 認知症診療支援センター長。 日本神経学会 指導医・専門医。清瀬市医師会 認知症委員会委員長

 

適切な診断と早期からの治療で  「良い時間」を長く

――加齢によるもの忘れと認知症の違いはなんでしょうか?

「認知症とは、アルツハイマー病などが原因で脳の神経細胞がダメージを受け、記憶障害などが起こり、生活に支障が出ている状態を言います。

一方、加齢によるもの忘れは、指摘されれば忘れたことに気づきますし、ヒントによって思い出すこともできます。

年を取れば誰でも忘れやすくなるのですが、新しく覚える能力はさほど落ちないのですね。ところが、認知症の大半の方は、新しいことを覚えられなくなります。ですから『さっきの電話の内容が分からない』などとなり、生活に支障が出てくるのです」

 

――認知症になる原因は何ですか。

「原因となる主な病気は、脳が萎縮するアルツハイマー病、脳卒中などによる脳血管障害、レビー小体という異常な構造物が大脳皮質に溜まってしまう病気、などがあり、これらが全体の約90%を占めます。

病気によって、幻視がある、性格が変わるなど、症状の出方も違います」

 

――その診断はどのようにするのですか。

「まず認知症かどうかを調べるわけですが、最初は問診が基本です。

有名なもので、長谷川式簡易知能評価スケールという問診方法があり、これは信頼性が高いです。一例として、『サクラ、ネコ、電車』などの単語を覚えていただき、しばらくしてから『さっきの単語、思い出せますか』と聞いていくのですね。

ただ、問診だけでは進行状況や原因を見極めるのが不十分な場合、必要に応じて脳内の画像診断を行います。

病気や進行状況によって治療方法や薬が異なりますから、正しく鑑別することが重要です」

 

――治療はどのように行うのでしょう。

「今のところ根治させる薬や治療法はまだありません。

とはいえ、初期なら、投薬などで脳の血流を良くするなど、一定の効果のある治療が可能です。

正確に言うと、症状の進行を遅らせることができるのですが、これにより、症状が穏やかになったり、意思の疎通が少しできるようになったりはします。

あくまで一時的な改善なのですが、それでも、これはとても意味のあることです。症状の軽いうちに治療を始めれば、その分、良い時間を長く過ごせます。クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)という意味で、これは大切です」

 

家族や周囲の正しい理解が大切 最終的な居場所を決めよう

――認知症の方の徘徊のニュースが話題になっています。約1万人もの行方不明者がいるとか。

「私の患者さんでも、京都まで行ってしまった方がいらっしゃいますね…。

認知症は記憶障害、判断力低下、見当識障害の3つが“中核症状”なのですが、3つの要因と周囲の理解や対応の仕方によって、BPSD(行動・心理症状)と呼ばれる徘徊、暴言・暴力、異食、妄想、拒絶などが現れることがあります。

これらの症状が家族を悩ませるのですが、症状が出始めてからおおよそ2年程度で収まるというデータがあります。

また、これらは発症初期の後半から中期前半にかけて現れる傾向があります。その時期はある程度予測できますので、早めに対処しておくと、うまく乗り切ることができます」

 

――先生の家族への対応は?

「むしろ、診断当初はご家族のほうに力を入れます。認知症の場合、ご家族が正しく理解しているかどうかは非常に重要なのです。

忘れてしまう病気ですから、一人暮らしでは薬を飲むのも忘れますし、生活自体も危うくなります。

家族で対応しきれない場合は、デイサービスや老人ホームなどの施設・介護の専門家を頼ることをためらうべきではありません。積極的に地域の社会資源を使うべきです」

 

――そういう助言も?

「大切なのは、ご本人の最終的な居場所を決めておくことですね。最期まで自宅でみるのか、施設にお願いするのか。最終的な居場所の見当をつけておけば、『どの程度の状態までなら家族でみられますか』『ここまでは自宅でやります』と話し合って、対策を立てられます。

進行をある程度予測して、スケジュールを提示するようにしています」

 

増加する軽度認知障害 早めの受診と予防が肝心

――軽度認知障害という言葉も聞きます。認知症との違いは何ですか。

「軽度認知障害はMCIと呼ばれ、認知症の前段階の状態で、全国で約400万人いるとみられています。

ただ、この診断は難しい。問診での基準点はありますが、それよりも重要なのは、日常生活で困っているかどうかです。困っているようなら、なるべく早く治療を開始する必要があります。

最近はこの段階で受診に来る人が増えています。テレビや新聞などの影響で来られる方が多いのですが、早めの受診は良い傾向です」

 

――地域の中で、認知症の専門外来は少ないと聞きます。そういう中で複十字病院の役割は。

「当院の最大の特長は画像診断の設備と精度が優れていることです。

数種類の高性能機器が揃い、脳の画像診断のエキスパートによる精度の高い診断が可能です。大半が保険診療が可能です。

専門性が高いですし、地域で大きな役割があると自負しています」

 

――ところで、セミナーではどんなお話を?

「認知症というと絶望的になる方が多いのですが、私は、いずれ治る病気になるのではという希望を持って、ご本人やご家族に接するよう心がけています。

だからこそ、早期治療で少しでも良い時間を長くすることが求められますし、進行予防が大切になります。そして発症の予防にも努めてほしいと思います。

予防にはまず生活習慣病に気をつけること。糖尿病はアルツハイマー病の罹患リスクが通常の人の2倍、脳血管性認知症のリスクが3倍というデータもあります。

それとやはり運動です。日常的に運動をしている人とそうでない人では発症リスクに大きな違いがあることがデータで分かっています。

認知症は予防が大切ということ、また、発症をしても対策があるということを、希望を持って、多くの人にお伝えしたいと思っています」

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