一番好きな食べ物が何かを選ぶときに決まって話題になる「人生最後に何を食べたいか」。
「人生最後に」というのは、一見、一番好きなものの選び方として最良に思えるが、実はまったく見当はずれのような気がしてきた。少なくとも、食べ物以外のもの――好きな曲や本をめぐっては、たぶん適切ではない。
つい先日、「ぼくはこうして生き残った!」シリーズ(KADOKAWA/メディアファクトリー)にはまっている小2の息子が、「ぼくはこの本が一番好きだけど、お父さん、お母さんは?」と聞いてきた。
適当に答えるわけにもいくまいと、真剣に考える。その横で妻は早々に、「原点という意味ではミヒャエル・エンデの『はてしない物語』かな」と答えを出した。何の原点なのかは、よく分からない。
「お父さんは?」
息子がしつこく聞いてくる。心の中にいくつかの作品が上がっていたが、一つを選ぶのは至難だ。
実際のところ、私にとって長く重要な作品であったのは、小説に限れば遠藤周作の『沈黙』だった。厳密に言うと『銃と十字架』という評伝のほうが私にとって重く、同書に出てくるペトロ岐部の生き様は、岐路に立つ度に私の心に現れた。ペトロ岐部は、ローマで司祭になった後、キリスト教弾圧下の日本に戻り殉教した人物だ。
私はクリスチャンではないが、そのまっすぐな生き方に心惹かれる。自分の信念を試されるとき、常に、岐部の存在が心に宿る。その意味で、同書が私にとって特別に重要なものであることは間違いない。
しかしだ。
同書や『沈黙』を人生最後に読みたいかと聞かれれば、返答に窮する。というか、割とあっさりと、ノーと言ってしまいそうだ。はっきり言って、テーマが重すぎる。
では、人生最後に読むとしたら何になるだろうか。重いテーマはつらいし、現実離れした推理小説は軽すぎる。
いろいろ考えた挙げ句、井上靖の『氷壁』が残った。読者のみなさんは、どうだろうか。
良かったら、ぜひご意見を寄せてください。
(2015年6月10日号・本紙掲載分から転載)
株式会社タウン通信代表取締役。地域紙「タウン通信」を多摩北部で約10万部発行、ウェブサイトでも地域情報を発信する。著書に
『議会は踊る、されど進む〜民主主義の崩壊と再生』(ころから)、
『中高生からの選挙入門』(ぺりかん社)、
『起業家という生き方』(同、共著)、
『スポーツで働く』(同、共著)、
『市役所で働く人たち』(同)がある。
◎『銃と十字架』(遠藤周作)
◎『氷壁』(井上靖)
◎『はてしない物語』(ミッヒャル・エンデ)
◎『ぼくはこうして生き残った」
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