知的障がい児にバイオリン指導 北欧への演奏旅行を目標に

福祉関係の仕事をしながらライフワークで知的障がい児たちにバイオリン指導をしている久保井新太郎さんが、「知的障がい児たちの合奏団」を結成してスウェーデンに演奏旅行をしたいと、目標を掲げています。

指導においては、弦を少なくするなど独自のメソッドも構築している久保井さん。その指導の様子を見学させていただきました。2分ほどの動画では、現在の生徒さんと久保井さんからの仲間募集のメッセージもいただいています。まずは動画をご覧ください。

動画(1分57秒)

 

あるダウン症青年との出会いを機に

久保井さんがバイオリン指導を始めたのは、あるダウン症の青年との出会いがきっかけです。

福祉関係の仕事に就いている久保井さんは、あるとき、ダウン症の青年が見事なバイオリン演奏を披露するのを見て、衝撃を受けました。

鍵盤を押せば同じ音が出るピアノと異なり、バイオリンの場合は、自分で音を探して出していく難しさがあります。

少年の頃からバイオリンに親しんできてそのことをよく知る久保井さんは「障がいのある人にバイオリン演奏は無理だろう」と思い込んでいたといいます。

ところが、かなりの腕前のその青年を知り、考えが変わりました。

そこで、ある保育園年長の子にレッスンを提案。その子を皮切りに、これまで8人の子どもたちにバイオリン指導をしてきました。約30年前のことです。

子どもたちは、知的障がい、学習障がい、自閉傾向、ダウン症などさまざま。それぞれの個性を見極め、「どんなレッスンなら続けられるか」を模索し、独自のメソッドを構築していきました(久保井さんはその詳細を本にまとめています。詳しくは末尾)。

 

スウェーデンとの交流

そんなある日、久保井さんは、スウェーデンの知的障がい児たちの合奏団を知りました。

来日演奏のニュースをテレビで見たのがきっかけで、コンサート会場に駆けつけて指導者と交流を持ち、その後、現地にまで訪ねています。

その交流を通して、久保井さんは、自分も合奏団を作り、スウェーデンに演奏旅行に出掛けることを目標として持つようになりました。

上記の動画にもあるように、その動機を久保井さんは「演奏は交流のための一つの手段。みんなで旅行ができれば、絶対に楽しいと思う」と明るく話します。

 

現在の生徒・棚原遼さんの場合

とはいえ、障がいのある初心者たちにとって、バイオリンはハードルの高いものなのではないでしょうか?

そこで、現在の生徒の棚原遼さん(中学2年生)とお母さまのゆみ子さんに話を聞きました。

ゆみ子さんによると、遼さんは幼少の頃、特にチェロの音色が好きで弾きたがったそうです。
いろいろな音楽会に連れて行き、楽器習得については当時も考えたそうですが、「できるとすれば打楽器だろうと思い込んでいた」とゆみ子さんは話します。

それがバイオリンに目が向いたのは、久保井さんのチラシを見たのが縁でした。
弦の数を1本減らすといった久保井さんの指導に触れ、「こういうのもありなんだ」と思ったといいます。

以降、遼さんは月に3回、土曜日に50分ほどのレッスンを受け、約3年が経ちます。年末にはコンサートにも参加し、その成果を披露してきました。

家ではあまり練習しないという遼さんですが、月3回のレッスンだけとは思えないしっかりした音を出しています。

「遼は音感がかなり良いですね。音が外れたときに修正できるし、音楽が好きというのが分かります。嫌々でないから、伸びるのが早いです」
と久保井さん。

当の遼さんは、「バイオリンを弾くのは好き」と話します。
特に久保井さんと合奏をするのが「本物っぽくて楽しい」とのことでした。

 

楽しいから続けているだけ

こうした指導を続けている久保井さん。障がい児たちへの音楽指導は、どのような思いで行っているのでしょうか?

その問いに対し久保井さんは、「質問の真意が分からない」といった困惑の表情を浮かべました。深い意味はない、というのが久保井さんの回答です。

「草野球を続けている人に、野球の何が楽しいのですか? と聞くようなもの。『楽しいから楽しい』。それ以上の答えはありません。
彼らは純粋で、飾ることがない。そうした彼らに音楽を教えるというのは、単純に楽しいことです。

彼らが機嫌良くレッスンを終えたときは、こちらも嬉しくなります。
もちろん教えるのは容易ではないですが、苦労して教えるのもやりがいです。

スウェーデン演奏旅行についても同じです。何かの意味を求めて目標にしているのではなく、単純に『楽しそうだな』という思いです。
多くの子に参加してほしいですね」

なお、レッスンは現在は清瀬市にある清瀬聖母教会を会場に、月3回、土曜日午後(2時から4時の間で40分程度)で実施しています。

レッスンは無料。サイズなどの条件が合えば、楽器のレンタルも可能とのことです。

初心者からレッスン可能。詳しくはメールで久保井さんまで。

メール kuboi-0058@msb.biglobe.ne.jp

 

レッスン方法を本に

久保井さんは、約30年にわたって試行錯誤してきたレッスン方法を、書籍『知的障害・学習障害のあるお子さんへのバイオリンレッスン』にまとめています。

A5判、197ページ、送料込みで1200円。ネット販売のみ。Kindle版もあり。

注文については以下のホームページから。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~fiddler/


2019/10/2

障がい者たちのプロ人形劇 10周年

「桃太郎」を無料公演、ルネこだいらで  「全部手作りを見て!」   小平市にある障がい者の就労継続支援施設「リズム工房」が組織する「キラキラ人形劇団」が、5日午前11時から正午まで、小平市ルネこだいらで10周年記念公演を行います。 同施設では、作業所の仕事として人形劇に取り組んでおり、人形や小道具なども全て手作り。当日は「桃太郎」を上演します (※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)20196   人形劇「桃太郎」を練習する「キラキラ人形劇団」のメ ...

ReadMore

2018/9/18

「自分らしくピアノ演奏を」 人さし指一本で奏でる車いすのピアニスト 岩崎 花奈絵さん

岩崎花奈絵さんは、障がいを持ちながらも、演奏を披露するピアニストです。 早産で生まれ脳性まひによる障がいが残るも、6歳で始めたピアノを愛し、今年1月に初のソロアルバムを制作。海外での演奏も多く、ウィーン国際障害者ピアノフェスティバルでの特別聴衆賞など、幾つか受賞もあります。 30日(日)には、通っている「どろんこ作業所」の40周年記念イベントで、ベートーベン「喜びの歌」などを披露します。 (※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています)   14歳で海外デビュー ピ ...

ReadMore

2020/8/17

「ゆうやけ」の日常が映画に

「ゆうやけ」の日常を見てね!  障がい児たちのドキュメンタリー 小平市で3つの放課後等デイサービスを実施する「ゆうやけ子どもクラブ」の日常が、ドキュメンタリー映画となって公開されています。 (※編集部注 イベントは終了していますが、地域情報として掲載を継続しています) ◎下にインタビュー動画あり 同クラブは、障がい児のための放課後の居場所として全国でも草分け的な存在で、1978年にボランティア5人によって始まっています。現在は、3カ所で知的障がいや自閉症など計68人の児童と職員40人が在籍しています。 そ ...

ReadMore

2020/10/10

「農業と福祉」の連携で作る旬の「健康ピクルス」 東久留米から

東久留米市産の旬の野菜を用いた「健康ピクルス」の販売がスタートしました。 ユニークなのは、近隣の障がい者らが生産にかかわっている点。地場産野菜の魅力発信とともに、彼らの就労支援も目的にした「農と福祉」によるプロジェクトで、今後、「ふるさと納税」の返礼品に採用されることなどを含め、地域の名物にしていくことを目指しています。 東久留米市産の野菜で作った「健康ピクルス」   旬の食材を用い、一つ一つ手作り この「健康ピクルス」は、東久留米市大門町にある「野島農園」で採れたキュウリ、ダイコン、トマト、タ ...

ReadMore

編集部おすすめ

1

新春万福 2024年は十二支でいえば辰(たつ)年であり、九星でいえば三碧木星(さんぺきもくせい)年。 「辰(=龍)」は十二支のなかで唯一架空の動物で、それは雲をおこし、雨を降らせるという、天がける存在 ...

2

初詣はどこに行く? 地域メディア視点で、北多摩5市(西東京・小平・東村山・東久留米・清瀬)の初詣先をご紹介。他エリアの有名どころには目もくれず、「地元」にこだわって選定しています。もっとあるよーの声も ...

3

小平市長と対談 「地域での体験の機会増やしたい」 FC東京などで活躍した元Jリーガーで、現在、同クラブのスカウトを務める吉本一謙さんが、1日、小平市教育委員会委員に就任した。吉本さんは小平市出身で、現 ...

4

1923(大正12)年9月1日発生の関東大震災から100年。本紙では、旧田無市・旧保谷市(ともに西東京市)、東久留米市、小平市の市史をもとに、「そのときの地域」を探った。  * * * 各市の市史から ...

Copyright© タウン通信 , 2024 All Rights Reserved.