2018.05.10 コラム

デンチュウに学べ!②「彫刻家・平櫛田中の珠玉の言葉〜けふもおしごとおまんまうまいよ びんぼ(う)ごくらくながいきするよ」

<【コラム】デンチュウに学べ!②「彫刻家・平櫛田中の珠玉の言葉〜けふもおしごとおまんまうまいよ びんぼ(う)ごくらくながいきするよ」>

 

 

「おまんま」。もはや死語となってしまったのだろうか、近頃さっぱり耳にすることがなくなった。でもこの言葉は、それを聞くとふっくらと炊きあがった白い御飯が目に浮かんでくるようで、筆者は好きだ。ごはんを美味しく食べられるように今日もせい一杯働こう、そんな気分にもしてくれる。

 

このような句をある種の「労働賛歌」と呼ぶことができるなら、よく知られた「働かざるもの食うべからず」というのもあるが、こちらはなんとなく戦前・戦中期の修身教育を連想させ、労働はつらいもの、ということが前提にあるように思われる。でも、デンチュウの句の方には労働の歓びが込められた明るい響きが感じられないだろうか。

 

ただ、「労働賛歌」で始まる今回の句は、後半になると内容は一転して「貧乏賛歌」のようなものになっている。読者には飛躍があるように思えるかもしれないので、少し説明しておきたい。

 

デンチュウは明治生まれの多くの芸術家がそうであったように、戦前まで経済面で苦労した。とにかく作品が売れないので収入がなく、借金が積りにつもって家主から立ち退きを迫られたり、生まれたばかりの子供にミルクを買ってやれないということもあった。それだけに貧乏のつらさは骨身に染みていて、昭和37(1962)年に文化勲章を受章し昭和天皇の宮中晩餐に招かれた際、陛下から最も苦労したことは何かと訊ねられたデンチュウは、「おまんまを食うことでした」と答えている(※註)。

 

「空腹は最高の調味料」というが、貧乏生活の中でありつくことのできた「おまんま」は極上の味。まさに「ごくらく」だったに違いない。デンチュウにとって句の前半と後半は矛盾なくつながっていたのである。

 

こうしたつらい経験をさらりと明るく詠み上げるのは容易ではないが、今回のデンチュウの句は、忙しく、つらい毎日の中でも日常のありきたりの行為や出来事を実感することが、生活に潤いを与え、生きる力になるということを私たちに教えてくれているようだ。

 

※註 今泉篤男「平櫛田中先生回想」(『現代彫刻』37号、昭和55年3月)より

 

 

<作家プロフィール>

藤井 明(ふじい・あきら)

小平市平櫛田中彫刻美術館/学芸員

1968年石川県生まれ。青山学院大学大学院文学研究科史学専攻修了。1993年から現職。武蔵野美術大学非常勤講師(2014~)、放送大学非常勤講師(2016~)。著書に『近代日本彫刻集成(全三巻)』(共著、国書刊行会、2010~2013年)、『橋本堅太郎作品集』(共著、講談社、2011年)、『日本藝術の創跡22』(共著、クオリアート、2017年)等がある。

 

<リンク>

小平市立平櫛田中彫刻美術館

denchu-museum.jp