ビートルズって、何?【16】《変化はもう始まっていた?! 新しいビートルズ!》

2024年2月21日

西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久

 好評頂いている【ビートルズって、何?】では、自分たちの音楽活動や社会の動きをどう思っていたのか、ビートルズや彼らを取り巻く人々とのdynamics(関係性/集団力学)に注目しながらたどっています。
 前回【15】は、まず過去のビートルズの活動の価値が改めて高く評価されたというニュースについて。そして、前々回の1964年の終わり頃にはくたびれ果てていたビートルズが1965年になって息を吹き返す頃の背景について考えてみました。
 今回は、いよいよ息を吹き返したビートルズがジワジワと新しい姿を現し始めた頃、新しい方法でアルバム”HELP!"をレコーディングしていた頃を見ていきたいと思います。
 たくさんの皆さんの感想やご意見、どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

新曲は新方式でレコーディング ~シングル ’Ticket To Ride’ 他  <1965.2.15~20>

 前回、あまり気乗りのしない様子で映画"Help!"の撮影に取り組んでいたビートルズの面々ですが、お話ししたジョージのインド音楽との出会いの他にも、リンゴのモーリン コックスとの結婚、ジョンの自動車運転免許の取得、アルプスでの生まれて初めてのスキー体験等々、多忙な中にも、少しづつ新しいできごとがビートルズの周りでも起き始めていました。
 そんな中、実は映画撮影が始まる前に、新曲や映画で使用される予定の曲等の録音も始まっていました。それも、新しいの方式でのレコーデイングが。
 実は、どうもこのことが、ビートルズにとって熱中できる音楽活動がコンサートや放送用の音源等を<ライブで演奏すること>から<スタジオでのレコーデイング>に移っていく一つのきっかけになっていったように思えます。
 (勿論、もう一つの背景的要因として<ライブ会場では、演奏している自分達にすら音が全く聞こえない状態が続いていた>ことがあることは、ほぼ間違いないと思われます。残念ながら、この頃にはキャバーンクラブでのステージのように、バンドと観客が一体となって演奏を楽しむことなど、全く望めない状態になっていたのです。)

 では、その新方式でのレコーデイングです。
 まず、ジョンが作曲し、リンゴらしいタメ(間の取り方)の効いた特徴的なドラミングとジョージがReckenbackerの12弦ギターで弾くイントロが印象的な新曲 ’Ticket To Ride’ です。
 この曲のドラミングについて、ポールのアイデアが元にあるとも言われていますが、実際にこの曲のゆったりした大きなうねりのようなノリを生み出しているのは、間違いなくリンゴの類い慣れなリズム感≒ドラムセンスのなせる技だと筆者は思っています。
 また、この12弦ギター(1963年製 Reckenbacker360-12)は、ジョージが最初のアメリカ公演でメーカーから贈られて大変気に入って”A Hard Days Night”以来ずっとレコーデイングでも使ってきた楽器ですが、この ’Ticket To Ride’ 以降はあまり使われなくなります。
 (ジョージはその後も、違うReckenbacker製12弦ギターも使ったりしていますが、どうも一般的に、12弦ギターは適正なチューニングを維持し続けることには難点があるようです。)

 さて、この ’Ticket To Ride’ のレコーデイングですが、後にマルチトラック方式と呼ばれる方法で行われました。
 まず、バックトラック(本番のガイドとしてのリハーサルの歌と伴奏の楽器演奏部分)を2回分=2トラック録音しました。そして、その内の2番目のテイク(録音)の4トラックテープ(4つの録音用のコースがあるイメージ)の1・2トラックに本番の<ドラムとベース、リズムとリードギター>を録音します。
 その後、3・4トラックにあった最初のガイドリハーサルを消すと同時に、その上に本番の<リードヴォーカル、バックコーラスとタンバリン・ギター等>をオーバーダビング(後から録音)します。最終的に、全体のバランスをとりながらミキシングする、という手順で進められました。
 このように、一度元になるバックトラックがしっかりできてしまえば、後から何度でも音を重ねたり付け加えたりすることができるようになったのです。
 ところでこの曲で間奏やエンディングで聞こえるのは、前号で紹介したポールがこの頃入手した新しいギターEpiphone Casinoで弾いた演奏です。
 勿論ポールは、ハンブルグ以前にはギターも弾いていましたが、プロになってからのレコーデイングでギターの演奏を残したことはありませんでした。(ステージではベースを弾くのですから、ポールの担当楽器は、基本的にベースでした。)
 また、アルバムの3曲目になるジョンの ’You've Got To Hide Your Love Away’ もこの頃録音されました。ボブ ディランの影響が感じられる詩やアコースティックな曲調も特徴的ですが、この曲では、エンディングでビートルズの四人ではないとはっきり分かるセッションミュージシャンが演奏したフルートの音が残されました。
 実はこれが、ビートルズの関係者でない外部ミュージシャンの演奏が録音された最初の曲だったのです。(勿論後述のように、この直ぐ後の 'Yesterday' での弦楽四重奏団の演奏やアレンジの方が重要ですが。)
 このようなことは、後から音を重ねることができるこのマルチトラック方式で初めて可能になったと言えるでしょう。
 このように新しい方式でのレコーデイングに取り組み始めたところで映画の撮影が本格的に始まり、最終的には5月11日まで続きました。※映画"Help!"のお話は前号をご覧下さい。

チャレンジ満載のアルバム ”Help!” のレコーディング <1965.4.13~6.17>

 さて、最終的になかなか決まらなかった映画のタイトルが"Help!"と決まった数日後。
 ジョンとポールで考え始め、最終的には大部分をジョンが作ったタイトル曲 ’Help!’ の録音は、映画の撮影がまだ続いていた4月13日の午前中の4時間で仕上げたと記録されています。
 この曲はジョンが書いた最初のリアルメッセージソングだと言われます。そのことをジョンは、
「本気で言うんだけど、これは現実的な話だ。僕だけが"Help!"と唄っているけど、本気で叫んでいるんだ。この曲がリリースされたとき、僕は助けを求めていた。その時は自分でも気付かなかった。でも、時間が経って僕は本心から助けを求めていたと分かった」と語ります。更にジョンは、
「あれは、僕の<太ったエルビス時代>だったと言える。映画を見てご覧よ。彼(つまり僕)はとっても太っているし、とっても不安定で、完全に自分を見失っていたんだ」とも。
 ポールもこの曲について、「いい曲だと思う。僕はあの曲が好きで、僕らはみんな、あの曲を気に入っている。多分僕らにとって新しいものだからじゃないかな。」と振り返って言い、ジョージも「かなり複雑な曲だ。何についての曲か気付くまでに数回聞き返さなければならないようなタイプの曲だから、成長していく曲だと僕は思う。」と語っています。
 また、歌・コーラスや演奏の面でもこの曲では実に多くの新しいチャレンジがなされています。
 まずイントロでは、歌と言うよりは実際の叫びに近い声での”Help!”と交代でジョンが数語をやりとりした後、まずコーラスが♫When~と長い音符で歌い出します。その後、その声をバックにしながら、ジョンが♬When I Was Younger・・・と普通のメロディーを歌い始めます。 ジョンの声・言葉がコーラスに追いついたところで、またコーラスが先行する。という主旋律とコーラスの歌の追いかけっこが、実に新鮮な響きで繰り広げられます。
 そして、その斬新な歌・コーラスを支える伴奏の楽器でも、ジョージの弾く特徴的なフレーズが全く新しい世界を提示してくれています。
 最初の頃に聞こえる、低音弦の音が次第に下降していくバッキングは、後のハードロック時代のギターバンドの伴奏の定番として、長く受け継がれていきます。 
 また、俗に「さざ波ギター」等とも言われる、開放弦を使った一連の経過音もジョージならではの個性的なサウンドで、どうやってこの音を出す(弾く)のか、多くのギター少年・少女の頭を悩まし続けてくれました。
 ジョンも、このアルバムからドイツ製の Framus Hootenanny という新しい12弦のアコースティックギターを使い始めました。
 この Framus ギターは、’Help!’ や 'You've Got To Hide Your Love Away' ではジョンが弾いていますが、ポールの唄う 'I've Just Seen A Face' ではポールもジョージもオーバーダビングでこのギターを弾いているようです。
 また、この曲ではリンゴのスネアドラムの「カンカン」する音が非常に耳に残ります。通常よりも随分高い音程にチューニングされているのですが、ジョンの'Help!'という悲痛な訴えを音色の面で表現しようとしたようにも思えて非常に興味深く思えます。
 (つまり<落ち着いて・潤っているの時の音色がしっとりした音≒相対的に低い音>で、その逆の<悲痛さ>をリンゴは<高い音で表そうとした>ように思えるのです。少なくとも、カンカンした高い・硬い音の方が「耳に痛い音」だと感じられるのではないでしょうか?)

 さて、このアルバム"Help!"の音作り・レコーデイングでのチャレンジについて考える時に忘れてはならないのは、ポールの最高傑作と言われるバラード 'Yesterday' でしょう。
 実は、この曲は今のようなメロディと歌詞の形になるまでには、随分時間がかかっています。(マーチンは、当時ポールが 'Scrambled egg' と呼んで仮の歌詞まであったこの曲のメロディーを初めて聞いたのは1964年の1月だった、と言っています。)
 ポールはこの歌が生まれた時のことを「ベッドを転がり出るとピアノの鍵盤に指を乗せた。頭の中でメロディーができていた。全部が完璧な形でできあがっていた。信じられなかったよ。本当に自分が作ったとは思えなかった。・・・それで、みんなの前でその歌のコードを弾いて回って聞いてみた。『これ何かの曲に似てないかい?僕が作ったと思うんだけど。』」と振り返ります。
(実際、一緒に共演したバンドのメンバー等が、ポールがギターを弾きながら上のように聞いてきたことを覚えています。1964年末のXmasショーでは当時クラプトンがいたYardbirdsのメンバーにも。)
 また、この曲をアレンジしていた時のことを振り返ってマーチンは言います。
「この曲は素晴らしい曲であるばかりか、流行を先駆けるレコーデイングでもあった。この曲で初めて弦楽四重奏団を使ったことによって、ビートルズのレコーデイングは新時代に突入したんだ。」
「この曲の弦楽器の楽譜はポールと私が一緒に書いた。チェロをここに入れて、ヴァイオリンをあそこに入れて、という具合にね。特にチェロが7th(普通のクラッシックでは使わない、黒人のブルース的な音の使い方)に移行するところはポールのアイデアだ。それに彼は、最後の部分でヴァイオリンが非常に高い音を出し続けるというアイデアもやりたがった。正直、私はそれはちょっと退屈だと思ったが、彼の言うとおりにしたんだ。後のアレンジはほとんど私が考えた。」と。
 また、この頃の自分とビートルズの面々との関係が変わりつつあったことについては、「妙なことに、それ(弦楽器の導入)と同時に私達の関係が正反対の二方向に発展し始めたんだ。
・・・最初の頃は、私が先生で彼らが生徒のような関係だった。彼らはレコーデイングについて何も知らず、私がやるようにいったことを一つ一つ実行していったのだった。だが、彼らがそれ(レコーデイングのやり方)を身に付けるのは非常に速くて、最後には主客転倒して、私が彼らに仕え、彼らが私を指図する立場に立っていた。」と。
 この頃の、レコーディングに励む自分達の様子をポールも次の様に振り返ります。
「この頃は、みんな何かに取り憑かれたようにレコーデイングに打ち込んで、無我夢中になって夜中まで作業をして、翌朝の6時ぐらいになってもまだスタジオに残ってバカなことをやったりしていたよ。」
 この後の"Rubber Soul"や"Rovolver"の頃にはっきりとその姿を現す<ビートルズの革命的音作り>は、実はこの頃から始まっていたのですね。

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【NBC イベント情報】・【ビートルズ倶楽部バンド ライブ決定!】

★ 2024年4月13日(土)18時~20時 於:<弾き語りCafe ひこうき雲>         (西武池袋線東久留米駅北口歩1分 ☎080-1070-1246) 
※詳しくはもう少し後でお知らせします
。1ドリンクチャージ(有料)等の予定。
☆新しいメンバーも迎えて多彩なアレンジで、賑やかにビートルズナンバーを演ります。
♫広々した店内でゆったりと、皆さん一緒にビートルズを聴いて唄いましょう!

【イベント速報~その2】

☆前号でもお知らせした<Fab 4の日(ビートルズの日)>の2月4日(日)、杉並区の井草での、NBC企画《ビートルズ トークセッション》~聴いて語ろう!ビートルズ<私の1曲はこれ!!>。
 今回は、イベントの最後に参加者の皆さんに書いて頂いた<私が聴きたい、この曲!>の集計結果についてです。一人5曲までで全部で41曲を挙げて頂きましたが、非常に興味深いことは、選ばれた曲は「ほとんどがバラバラだった≒同じ曲のリクエストは非常に少なかった」のです。
 1名のみが75.6%、2名が19.5%、最大が3名(2曲)で、たったの4.9%という結果でした。
 時期的にも散らばっていて、やや後期は少なく、前期・中期がやや多いくらいでした。
<ビートルズ好きはそれぞれ多様>ということでしょうか?自律していていい、と思いました。 ※以下、人数の多い順,〇内人数,同数はほぼ録音順。

And I Love Her/Yesterday  

Love Me Do/She Loves You/This Boy/A Hard Day's Night/Tomorrow Never Knows/Strawberry Fields Forever/Blackbird/Let It Be

Ask Me Why/All My Loving/Roll Over Beethoven/I Should Have Known Better/ Can't Buy Me Love/ I Feel Fine/No Reply/Mr. Moonlight/Eight Days A Week/Help!/You're Going To Lose That Girl/The Word/In My Life/Rain/Eleanor Rigby/For No One/Got To Get You Into My Life/She's Leaving Home/A Day In The Life/The Foll On The Hill/Your Mother Should Know/I Am The Walrus/Hey Jude/Ob-La-Di,Ob-La-Da/While My Guitar Gently Weeps/I Will/Julia/Old Brown Shoe/Across The Universe/Here Comes The Sun/Because

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 皆さんもビートルズの曲を唄ったり演奏したりしながら<ビートルズサウンドの秘密>を一緒に考えませんか?
 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)では、今までもビートルズ好きの皆さんがリアルで集まって ビートルズのCDを聴いて語り合ったりビートルズの曲をライブで聴いたりするイベント等を行ってきました。今「ビートルズのこの曲なら弾ける」とか「演奏してみたい・唄いたい」という皆さんと一緒に<ビートルズサウンドの秘密>を考える<ビートルズ倶楽部バンド>のメンバーを新たに募集します。熱い思いで一緒にプレイして、語り合いましょう!
 NBCでは、このサイトの内容やビートルズについてのご意見・感想等、お待ちしています。
 特に<私の1曲>として、<ビートルズの楽曲の中でどの曲が好きか、好きな理由やその曲にまつわる皆さん自身のエピソード等々>は大歓迎です。
 皆さんの熱い・厚い想いを、メールでご連絡下さい。お待ちしています! 
 ※イベントの申込やNBCへの意見・感想等のメールも、下記までお願いします!

西東京ビートルズ倶楽部(NBC) 

アドレス: nbc4beatles@outlook.jp

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2024/10/9

ビートルズって、何?【1】《互いに「ぶったまげた⁉」二人の天才、ジョンとポールの出会い》

                 西東京ビートルズ倶楽部(NBC)代表 田中敏久 「なぜ、ビートルズは今でも新鮮な気持ちで聴けるのか?」こんなことを思った方は多いのではないでしょうか? ザ・ビートルズのレコードデビューは60年以上前の1962年10月ですが、先日放送されたTV番組でも、iPhoneを創ったスティーブ・ジョブスの「私のビジネスのモデルはビートルズ」という言葉が紹介されていました。関連の新刊書籍の発行やCDの再発は今でも続いています。 ビートルズを愛する市民が集まる「西東京ビートルズ倶楽部」で ...

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